第八十九話・男に伝えたい「女のエクスタシー」女はどんな男を求めているか?
女は、今日も新しい恋のことを考えた。とはいえ、女は何も特別なことを望んでいるわけではなかった。男に『普通』に愛され、『普通』にカラダを求められ、『普通』にオルガスムスを感じる。ただそれだけを求めているつもりだった。ところが、この女の『普通』ほど、現実の男から遠いものはなかった。
男というものは、その女に慣れたとたん、恋も甘いもなく、ただ日常のヒトコマとでも向き合うかのような、味気ない態度をとる。男は仕事で成功すること、趣味のこと、それに仲間との見栄のためにはエネルギーを注ぐが、いったん自分のものになった女には特別な関心を示さなかった。どの男も同じだった。女はため息をついて、それでも懲りずに、新しい『普通の恋』を頭に描いた。
女は、ただ男に自分を見ていてほしかった。だから、はじめは男の気を引きたくて、身奇麗にしてみたり、楽しい話題を持ち出したりした。けれども、男の反応はほとんど変わらなかった。男は、女の態度に反応するのではなく、むしろ自分が“溜まった”ときに吐き出したくて、それで女を抱くだけのこと、そう女は感じた。そういうベッドシーンは、何も変化がなく、初めから終わりまで首尾一貫して、男が射精するためのペースだった。まるで絵に描いたように、いつでも同じ順序で、女を濡らし、挿入してあっという間に終わる。だから、女は「中でいく」ことができなかった。そんなベッドシーンなら、なくても同じ、女はそう思った。
女は、新しい恋を頭に描きながら、でも、現実を受け入れなければと、今日もまた悲しい努力をした。海岸線までのドライブを計画したのだ。きっと、それなら男も優しい気持になって、自分を女として、それなりに触れてくれるだろう。それなら自分もオルガスムスに達して、「中でいく」ことができるかもしれない、と。
ところが……男は仕事で疲れたといって、運転を女まかせにして、助手席でずっとイビキをかいていた。そして、女が予約した岬のレストランで腹いっぱい海のご馳走を食べると、ゲップをして、そろそろ帰ろう、帰りは自分が運転をすると言った。女は、『私の気持を汲んでくれて、男はホテルにでも立ち寄り、自分をいつもになくムーディに愛してくれる。そしたら、すてきなエクスタシーの世界がやってくる』、きっとそうだと思った。ところが――それは夢だった。夢に過ぎなかった。男は、カーステレオの音楽を楽しみながら、一直線に帰路を運転し続けた。
女は、明日も夢を見るのだ……新しい恋をする夢を。現実から救われたくて、夢を見る。でも、きっと、それが夢ではなくて、現実になってしまう。「別れたくて、別れるのじゃない。だって、その証拠に、私は今日も悲しんでいる」女は、そうつぶやいた。
男は、性においてロマンチストだと、先に述べてきたが、でも、じつは女だってロマンチストだ。馬鹿な……と思いながら『白馬にまたがった王子様が、自分をさらいにきてくれやしないか』と、心のどこかで期待しているのだ。王子様が、ヨン様だったり、ジャニーズだったり、いろいろバージョンを変えるが、自分をエクスタシーの世界に導く、王子様であることには変わりがない。
女は、王子様に身も心も捧げたくて、ウズウズしている。王子様に愛されるためなら、どんな努力も惜しまない。毎日でも美容院に行くだろうし、ダイエットにも成功するだろう。この『女のロマンチック』は、夢の世界だけの努力ではないことも多い。慣れ親しんだ男の前でも、それなりに男の気を引きたくて、あれこれ試行錯誤してみる、それが女なのだ。
「あなた、今日の私、いつもと変わってない?」「べつに、どこか具合でも悪いのか?」「ちょっと、あなた! 前髪を切ったし、いつもと違う香水もつけたのよ!」なんてことは、テレビドラマでよくありそうなシーンだ。
男にも、性における男のロマンチックはあるだろう。それが、オナペットと化 したり、AVの世界だったり、男本位に『男を悦ばせる女』の理想像となる。しかし、その理想像と現実の女が食い違っていて、失望することも大いにあるだろう。それと同じように、女たちも失望しているのだ、現実のそっけない男の態度に。
男は、ウソでもいいから、女の些細な変化に関心を示し、女の寂しい心を癒すことを、心がけいただきたい。そうすれば、知らずと男本意でなく、女を心から満足させる『白馬にまたがった王子様』になれるかもしれないのだ。
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